2026.7.8

実家を手放せなかった、ある男性のお話

サポートの現場から

ある地方に住む、60代の男性のお話です。

三人きょうだいの長男で、それぞれ結婚して県外で暮らしています。
ご両親が亡くなられた後、相続について兄弟で話し合い、実家は長男である男性が引き継ぐことになりました。
兄弟間で揉めることはありませんでした。
しかし、その後も実家を処分することはありませんでした。

「売れなかったんですか?」

そう尋ねると、男性は少し笑って答えてくださいました。

「売れないんじゃないんです。手放せなかったんですよ。」

子どもの頃から暮らした家。
家族で食卓を囲み、兄弟で遊び、両親と過ごした思い出が詰まっています。
建物としての価値ではなく、自分たちの人生そのものがそこにはありました。

もちろん、現実的な負担はあります。
男性は県外に住んでいるため、頻繁に帰ることはできません。
固定資産税もかかります。
庭木の手入れや掃除もしなければなりません。

それでも、

「お金の問題じゃないんです。」

そう話してくださいました。

ご両親は、この家をどうしてほしいと思っていたのでしょうか。
お父様は10年以上前に亡くなられました。
お母様は晩年、認知症となり老人ホームで生活されていました。
実家を残してほしかったのか。
処分してほしかったのか。
その気持ちを聞くことはできなかったそうです。

結局、実家はそのまま残すことにしました。
気が付けば、それから10年。
今では、お盆と年末年始には家族が集まり、掃除や庭の手入れをしています。

「別荘みたいなものですよ。」

男性はそう笑います。

親戚の子どもたちから、
「遊びに行くときに泊まってもいいですか。」
と連絡が来ることもあるそうです。
そんなときは、「もちろん。」と快く貸しているそうです。
家は今でも、人が集まる場所であり続けています。

もちろん、この選択ができたのは、男性自身が管理を続けられると判断したからです。
実家を守り続けることが難しい方も少なくありません。
遠方に住んでいる。
体力的に管理が難しい。
子どもに負担を残したくない。
事情はそれぞれです。

だからこそ、一人で抱え込まなくてもいいのだと思います。
家族や兄弟、専門家に相談しながら、自分たちにとって納得できる答えを探すことも一つの方法です。
実家を手放すことは、思い出まで手放すことではありません。
写真を残す。
家族で最後に集まる。
思い出の品を受け継ぐ。
残し方は一つではありません。

相続では、財産をどう分けるかに目が向きがちです。
しかし、本当に大切なのは、残された家族が後悔しない選択ができることなのかもしれません。
「実家をどうしてほしいか。」
もしご自身の考えがあるのであれば、その理由も含めて、ご家族に伝えてみてはいかがでしょうか。
その一言が、残されたご家族の迷いや負担を少し軽くしてくれるかもしれません。

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